五嶋アケミ ☆ 職業:役者

スペイン・バルセロナで役者修行中

陰翳礼讃と恋愛論

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図書館が好き。あのシーンとした空気がなんともいえない。たくさんの本があるけれど、それぞれの本の扉がそれぞれの世界の扉のように感じる。どの世界を旅しようか、そんなことを考えながら本を眺める時間が一番の贅沢。まだ私の知らない世界がたくさんある。むしろ知らないことのほうが多い。そして、知っていることは本当にわずかだ。私は急に迷子になった気持ちになる。

 今は谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を読む。この1週間でこの本を読んでいる人4人に出会った。ここスペインで! 実は、先日のトレーニングの題材で、吉野の柿の葉鮨の一節を使われていた。

食べる物でも、大都会では老人の口に合うようなものを捜し出すのに骨が折れる。先だっても新聞記者が来て何か変った旨い料理の話をしろと云うから、吉野の山間僻地の人が食べる柿の葉鮨と云うものの製法を語った。ついでにこゝで披露しておくが、米一升に付酒一合の割りで飯を焚く。酒は釜が噴いて来た時に入れる。さて飯がムレたら完全に冷えるまで冷ました後に手に塩をつけて固く握る。この際手に少しでも水気があってはいけない。塩ばかりで握るのが秘訣だ。それから別に鮭のアラマキを薄く切り、それを飯の上に載せて、その上から柿の葉の表を内側にして包む。柿の葉も鮭もあらかじめ乾いたふきんで十分に水気を拭き取っておく。それが出来たら、鮨桶でも飯櫃でもいゝ、中をカラカラに乾かしておいて、小口から隙間のないように鮨を詰め、押蓋(おしぶた)を置いて漬物石ぐらいな重石(おもし)を載せる。今夜漬けたら翌朝あたりからたべることが出来、その日一日が最も美味で、二三日は食べられる。食べる時にちょっと蓼の葉で酢を振りかけるのである。

谷崎潤一郎 陰翳礼讃

確かに、合とか升の単位はこちらにないし、sushi(鮨)やsake(酒)といった語彙は彼らにはなじみが浅くよく似ている。柿や蓼の葉を使うといったコンセプトも、パセリやにんにくを使うというより、頭の中に残りにくいだろう。よくこんな文章を見つけてきたな~、と感心した。

バルセロナ市内にある図書館のうち、日曜日も開いているところは各地区に1箇所。その上、11時から14時まで。日曜日は3時間だけは開けるけど、午後は休め、もしくは休ませろ(笑)、と言った感じだろうか。仕事も大事だけど、人生のほうが大事だ。だから、日曜の休息は必要だ。図書館が休みなら仕方ない、休もう。

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午後Skypeで、ダーリンと、ダーリンの娘のヨーコちゃんと話した。ダーリンと話すのはおもしろいけど、ヨーコちゃんがまたおもしろい。ちなみにヨーコちゃんは私より5歳ぐらい年下。

ヨーコちゃんを見ていると、「ジャンヌ・ダルクってこういう人だったんじゃないかな」って思っちゃう。なんていうのかな、彼女が民衆を率いろうとしたんじゃなくて、民衆が思わずついてちゃったんじゃないかな、そんな感じ。それっくらいヨーコちゃんは凛(リンリンリン♪)として颯爽としている。風のように現れて、つむじ風を巻き起こし、また風のように去っていく。

「おとーさんから、アケミさんの話をたくさん聞いていたとこ。旅行の写真?そういえばまだ見てない。」「のろけ話を聞くの、結構好きだから。いいな~!私も恋しよう!って気持ちになる。」「おとーさんは、アケミさんがいなくて寂しがっているけど、Skypeが出来るようになって、寂しくなくなったみたい、よかった。」そんなことをキャーキャー言いながら話して、切ったけど、この間知った坂口安吾の恋愛論の一節を思い出し、またかけた。

教訓には二つあって、先人がそのために失敗したから後人はそれをしてはならぬ、という意味のものと、先人はそのために失敗し後人も失敗するにきまっているが、さればといって、だからするなといえない性質のものと、二つである。

恋愛は後者に属するもので、所詮幻であり、永遠の恋などは嘘の骨頂だとわかっていても、それをするな、とはいい得ない性質のものである。それをしなければ人生自体がなくなるようなものだから。

坂口安吾 恋愛論

「ね~ね~、これ読んで!」「あははは~!ホントだ!おもしろい!」

そこで、私たちのガールズトークに圧倒され言葉少なめだったダーリンが坂口安吾を語り始め(がっつり坂口安吾世代というゆるぎない事実)、ヨーコちゃんが「堕落」についての自分の解釈を語り(語彙と構成と考察がすばらしすぎて、ガツンと殴られたようなショックでよく覚えていない)、私は自家発電について(自分で自転車を漕いで発電する「自転車操業的自家発電」と、自分の中にウランのようなもの出来て、内なるエネルギーが自然に沸いてくる「原子力的自家発電」があって、恋愛は後者だ)を語り、気がついたらまた30分以上経っていたので、Skypeを終えた。

こんなに知的で深い話が即興で出来るラブリーな人たちを、私がそう簡単に手放すはずはない。ふふふ。------- つづく。